カテーテル治療「ガイドワイヤー」の朝日インテック、予想外のMSワラント発行の行方は!?

 カテーテル治療(血管の詰まりに細いワイヤーを通す治療)のPTCAガイドワイヤーで競争力を持つ朝日インテック。売上高600億円規模であるものの、営業利益は約120億円と高い利益率をほこる医療機器メーカーだ。朝日インテックの時価総額は約8,000億円。財務状況もバツグンによい朝日インテックが2021年4月に突然、行使価額修正条項付の新株予約権(MSワラント)を約290億円発行。朝日インテックの業績と株価はどうなるのか?

■基本情報(2021年4月30日時点)

  • 株価:2,942円(10年来高値:3,880円)
  • 時価総額:7,670億円
  • 予想PER:83.4倍
  • PBR:10.3倍
  • 予想配当利回り:0.29%
  • 自己資本比率:78.0%
  • 会計基準:日本基準

■朝日インテックの業績は?

 朝日インテックの2021年6月期の第二四半期の売上高は283億円(前年同期比△8.6%減)、営業利益61.9億円(前年同期比△29.0%減)の減収減益となった。朝日インテックの売上総利益率は+69.0%(前年同期は+68.4%)、営業利益率は+21.9%(前年同期は+28.1%)と高い収益性のビジネスをおこなっている。

 売上高減少の理由としては、新型コロナウイルスの影響による症例数の減少と医療償還価格(ガイドワイヤーなどの医療材料の保険適用価格)の改定(低下)が要因だ。朝日インテックは世界的にビジネスを展開しており、新型コロナウイルスの影響により、世界的にカテーテル治療よりもコロナ治療を優先していることが、ガイドワイヤーの売上高に大きく影響したようだ。

■主力のメディカル事業の状況は?

 朝日インテックはメディカル事業とデバイス事業の2つのセグメントにわけてビジネスをおこなっている。朝日インテックのメディカル事業での海外売上高比率は約7割。欧米、中国、中近東などそれほど偏ることなくビジネスを展開している。しかも、利益率が高いのが特徴だ。しかしながら、国内・海外ともに前年同期比で売上高は減少してしまった。

■予想外のMSワラント発行!?条件と内容は?

 朝日インテックは2021年4月12日、「第三者割当による行使価額修正条項付第4回新株予約権(行使指定・停止指定条項付、「サステナブルFITs(※1)」)の発行に関するお知らせ」を公表した。いわゆる、MSワラントと呼ばれるものだ。朝日インテックの発行したMSワラントの主な内容・条件をまとめると下記のとおり。

  • 資金調達額:約290億円
  • 潜在株式数:9.6百万株(発行済株式の3.68%の影響)
  • 割当先:野村證券
  • 行使条件:直前取引日の終値の92%に行使価額修正
  • 下限行使価額:2,202円(2021年4月30日時点の株価:2,942円)
  • 資金用途:①公表したM&A買収資金143億円、②設備投資83億円、③その他63億円

 MSワラントを発行すると、割当先の野村證券は前営業日の終値の92%で株式を取得できるため、株式市場で当日売却することで利ザヤを稼ぐことができる。つまり、公募増資と異なり、長期投資目的ではない。朝日インテックは財務状況がきわめて優良な会社であり、十分借入する余地があるものの、MSワラントに踏み切った。その背景には経営陣自身がいまの株価を割高だと判断していると予想できる。

■朝日インテックの株価の行方は?

 朝日インテックは2021年3月~4月に海外会社4社の買収を発表。イタリアのKardia社の持分70%の取得額は約36億円、アメリカのPathways Medical社は約24億円、Rev.1 Engineering社は約29億円、千葉のベンチャー企業A-Traction社は約27億円で取得する。また、愛知県に約50億円をかけて新建屋を建設する。積極的に攻めの投資の資金の出所を株価の希薄化(MSワラント)に頼ってしまった。

 上記の4社の買収により、業績面でどこまで売上高と営業利益が増えるのか、現時点では公表されていない。朝日インテックとしては、現在の株高を活用して事業領域の拡大を図ることが大きな狙い。しかしながら、既存株主よりMSワラント公表後に多くの批判の意見が来たようで、2021年4月20日にMSワラント発行の補足説明を公表している。朝日インテックは高い時価総額を維持できたのは、成長性と収益性の高さから。ここにきて経営陣から株主権利を毀損する(株価の希薄化)行為で、当面の株価ははげしく上下に動きそうだ。

(画像4)朝日インテックの株価推移

以 上

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