全国の印刷会社と提携して印刷物を低単価で提供するラクスル(Raksul)。印刷物の「ラクスル」をはじめ、物流関係の「ハコベル」、テレビCMなどの広告動画の企画・制作・放映・分析まで一気通貫してサービスを提供する「ノバセル」の大きく3つのサービスを提供している。2020年2月~3月のコロナショックで株価は大きく下落したものの、現在では上場来最高値圏まで戻り、時価総額は1,300億円規模まで拡大。今後の業績と株価の行方はどうなるのか?
■基本情報(2020年12月11月時点)
- 株価:4,595円
- 時価総額:1,306億円
- 予想PER:未定(営業利益は△1.5億円赤字~+0.5億円の予想)
- PBR:19.32倍
- 予想配当利回り:0%
- 自己資本比率:34.0%
- 会計基準:日本基準
■ラクスルの業績は?
ラクスルの2021年7月期の第一四半期の売上高は59.4億円(前年同期比+10.9%増)、営業利益は0.7億円(前年同期は△0.4億円の赤字)と増収黒字化となった。ラクスルは営業利益について、non-GAAPという独自の指標で表していて、2021年7月期に株式報酬費用が4.5億円発生するため、その4.5億円を戻して表示している。今回の決算で注目すべきは、ラクスルの売上高が前年同期比で+11%くらいの伸びしかなかった点だ。高成長企業で赤字が許容されてきたものの、利益をしっかり稼ぐ前に成長が鈍化してしまった。
■売上総利益率を重視するラクスル!
ラクスルは主に売上総利益額と売上総利益率を重視している。ラクスルは広告宣伝の投資を積極的におこなっていて、いまは利益がでていなくても将来的には広告宣伝費の削減により利益を出す計画だ。そこで重要になってくるのが売上総利益率だ。意外なことに、ラクスルの売上総利益率は25%前後とそれほど高くない。クラウド関係のIT企業であれば、たとえばフリー、マネーフォワード、ラクス、Sansanなどは売上総利益率は60%~80%と高い利益率となっている。
■ラクスルの事業別の売上総利益率は?
ラクスルの事業別の売上総利益率は次のとおり。「ラクスル」は27.4%、「ノバセル」は18.9%、「ハコベル」は16.6%。どの事業もそれほど売上総利益率が高くない。ラクスルの会社平均で25.3%となっている。売上総利益率が25.3%であるということは、ラクスルは販売管理費がゼロであっても、営業利益率は最大25.3%ということだ(販管費ゼロはありえないが)。
最近のクラウド関連のIT企業の株価が好調な理由は、成長率と将来の収益性が評価されている。将来的には売上高300億円、営業利益60億円、営業利益率20%というような企業になることが期待されているからだ。ラクスルは今の収益率であれば、売上高500億円になったとしても、営業利益率は10%以下になるのではないだろうか。
■ラクスルの販管費推移!
ラクスルの2020年7月期の広告宣伝費は16.3億円。2020年7月期の売上高は215億円、営業利益△1.6億円のため、広告宣伝費がゼロだったと仮定しても、営業利益は14.7億円。営業利益率は6.8%となる。ラクスルが奮闘している市場は、利益率の高いクラウドサービス・ソフトウェア市場ではなく、印刷物、広告、物流などの低価格サービスを提供している市場だ。市場の仕組みから、いまのままのラクスルでは高収益化することはむずかしい。
■ラクスルの株価推移と今後の株価の行方は?
ラクスルの現在の時価総額は約1,300億円。コロナショック後の相場上昇により、ラクスルの株価は大きく上昇した。世界的な金融緩和により海外からの資金流入が大きく、ラクスルもその恩恵を受けた形だ。公表されている資料をみると、ラクスルの外国資本の保有比率は37.8%。ラクスルだけでなく、IT企業の海外保有比率は非常にたかい。
たとえば、医療従事者向けの情報提供をおこなうエムスリーは29.6%、ECサイト構築支援のBASEは40.5%、メルカリは41.6%、会計クラウドサービスのフリー(freee)は54.9%、靴のECサイト運営のロコンドは28.8%となっている。今後、金利上昇や円高などの金融市場の変化によっては、株式市場から資金の流出が発生する。その場合、海外資本が抜けていく可能性について注意が必要だ。
ラクスルの時価総額は将来性を考慮しても割高と考える。印刷、物流、広告ともに市場は拡大しておらず、ラクスルが市場拡大の波に乗って業績を拡大しつづける余地はそれほど大きくない。ただし、最近の相場は行き過ぎることが多く、これからもうひと段階、上昇相場がきてもおかしくない。
以 上