人材サービス「ビズリーチ」運営のビジョナル、株式市場の期待に応えられるか?

 ハイクラス転職人材向けの転職仲介プラットフォームを築いたビズリーチ(BIZREACH)。そのビズリーチを傘下に持つホールディングスカンパニーのビジョナル。2021年4月22日に東証マザーズに上場し、時価総額は2,000億円を超えた。売上高267億円、営業利益10億円(前年比△56.1%減)と時価総額とくらべて業績が苦戦する中、株式市場では高い評価を得た。今後のビジョナルの業績と株価の行方はどうなるのか?

■基本情報(2021年4月28日時点)

  • 株価:6,280円(10年来高値:7,490円)
  • 時価総額:2,235億円
  • 予想PER:572.9倍
  • PBR:20.42倍
  • 予想配当利回り:0%
  • 自己資本比率:51.9%
  • 会計基準:日本基準

■ビジョナルの業績は?セグメントは?

 ビジョナルの2021年7月の第二四半期の売上高は122億円(前年同期比△1.9%減)、営業利益15.1億円(前年同期比+6.6倍)の減収増益となった。ビジョナルの売上総利益率は+87.2%(前年同期は+85.3%)と高い。いっぽう、販管費は売上高122億円に対して、約77%を占める91億円を計上。授業員が1,200名を超えており、人件費や広告費が大きな比重になっていると思われる。最近でもビズリーチのテレビCMを見かけることが少なくない。ビズリーチの認知度向上のため、先行投資をおこなっている。

 ビジョナルのセグメントはHR TechとIncubation(新規事業)の2つに分かれている。しかしながら、ビジョナルの現時点の売上高のほとんどはビズリーチのHR Techとなっている。営業利益についても、Incubationは現時点では赤字がつづいている。

■ビズリーチとは?

 ビジョナルの事業の中心は人材採用プラットフォームのビズリーチだ。ビズリーチはハイクラス人材向けの転職希望者と採用企業との仲介をする人材サービス会社のような位置づけ。リクルートエージェント、パソナキャリアなどの人材仲介サービス会社(成約により年収の25%~35%など報酬を得る)はエージェント担当者が転職希望者と採用企業のマッチングをおこなうが、ビズリーチはヘッドハンターにそのようなシステムを提供している。ビズリーチが採用の仲介をするわけではなく、HR Techというシステムを提供している。

 これまで人材採用市場といえば、エン・ジャパン、DODA(パーソル)、リクルートキャリアなどの採用募集広告サイトとリクルートエージェントなどの人材仲介サービスの大きく2つが主流だった。ビズリーチは新たに採用募集する企業が自由に募集できるプラットフォームと転職者が自由に職務経歴書などを公開することでヘッドハンターが介入できるシステムを構築した。ビズリーチは3者(採用会社、転職希望者、ヘッドハンター)から仲介料やシステム利用料を徴収するビジネスモデルを構築している。

 具体的には転職希望者が職務経歴書をビズリーチに登録する(有料、無料あり)。ビズリーチは採用募集会社、ヘッドハンター、人材仲介会社(リクルートエージェント、パソナキャリアなど)に転職希望者一覧の閲覧で利用料を得る。さらに、ビズリーチは実際に採用(成約)したときに成功報酬を得ている。このようなダイレクトリクルーティングというHR Techを、他社ではできなかったものをビズリーチが築いたことが競争力の源泉だ。

■ビズリーチ以外のビジネスは?

 ビジョナルはビズリーチだけではないが、現時点ではほぼビズリーチ頼りという状況だ。HR Techとしては「HRMOS(ハーモス)」という採用・人材管理のSaaS(クラウドシステム)を展開している。現時点での売上規模は年間11.3億円(前年同期比+17.7%増)、利用中企業数は849社(前年同期比+10.7%増)。これから期待したいシステムであるが、SmartHRや勤次郎(旧日通システム)などもHR関連のSaaSを展開しており競争は激化しそうだ。

 そのほかにはIncubation事業(新規事業)として、「ビズリーチ・サクシード」と「トラボックス」をスタートしている。「ビズリーチ・サクシード」はM&A市場のオンライン化だ。ビズリーチと同じように、M&Aのプラットフォームの構築を目指している。ただし、M&Aのプラットフォーム(マッチングサイト)は、「Batonz(バトンズ)」「TRANBI(トランビ)」「スピードM&A」など競合も少なくない。

 「トラボックス」は、トラック運送のマッチングサイトだ。2019年11月にビジョナル(当時、ビズリーチ)が買収した事業。こちらも「MOVO(ムーボ)」やラクスルが展開している「ハコベルカーゴ」など配送マッチングサービスの競合他社も見られる。

■ビジョナルの株価の行方は?

 ビジョナルの時価総額は約2,200億円。決算説明資料など最新のものが公表されておらず、現時点ではビジョナルの将来性など見えない部分が少なくない。テレビCMにどれだけ先行投資しているのか等、現在の開示情報だけではわからない。

 「ビズリーチ」という魅力的なプラットフォームを築いており、「ビズリーチ・サクシード」(M&A)、「トラボックス」(配送)の市場を握ることができれば収益性に期待できるかもしれない。しかしながら、ラクスルは印刷、テレビCM、運送の分野で同じようなプラットフォーム構築を進めているものの、収益率はそれほど高くない。ビジョナルがどれくらいの営業利益率を出せるか、引き続き注目したい。

(画像4)ビジョナルの株価推移

以 上

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