アルバイト募集の「バイトル」や正社員・契約社員募集の「バイトルNEXT」、そして派遣中心の募集をおこなう「はたらこねっと」などの求人プラットフォームを展開しているディップ(dip)。アベノミクスによる景気拡大がはじまった2012年から求人需要が増加。結果、ディップの株価は10倍以上の急騰。ところが、新型コロナウイルスによる外出自粛などによる消費需要の消失により求人需要が一気に蒸発してしまった。コロナ禍でのディップの業績と今後の行方はどうなるのか?
■基本情報(2020年10月9日時点)
- 株価:2,340円
- 時価総額:1,407億円
- 予想PER:19倍~25倍
- PBR:4.03倍
- 予想配当利回り:2.39%
- 自己資本比率:84.1%
- 会計基準:日本基準
■ディップの業績は?
ディップの2021年2月期の第二四半期の売上高は69億円(前年同期比△36.1%)、営業利益9.4億円(前年同期比△73.0%)と大幅な減収減益となった。新型コロナウイルスの影響により求人需要は一気になくなり、アルバイト・パートを募集する企業や店舗が激減した。その影響がディップの業績に反映された結果となった。都内や郊外の街中を歩いていても、休業や閉店する店舗を見かけることが多く、求人需要が大幅に減少している。
求人需要が減る一方で、働く企業や店舗を求める人はこれから増加することが予想できる。これまでは求人メディアに頼っていた企業や店舗も、以前より求職者が増えることにより、店舗前の張り紙などで募集が(以前よりは)簡単に集まるケースが増えてくるかもしれない。求人数と求職者数の需給のバランスの変化は、ディップなどの広告単価に影響がでることが予想され、利益率の悪化につながると思われる。
■ディップの事業内容は?
ディップは人材サービス事業とAI・RPA事業の2つのセグメントを展開している。人材サービスは「バイトル」「はたらこねっと」をはじめとした求人関連の事業だ。もう一つのAI・RPA事業は、「コボット」というRobotic Process Automation(RPA)というサービスを展開している。「面接コボット」「不動産コボット」など、企業のパソコン上の日常業務を自動化するソフトウェアを提供するサービスだ。今のところ、売上高は1.4億円(2021年2月期の第二四半期)、利益△1.8億円の赤字で、先行投資という位置づけだ。
ディップは人材サービスとして、人材のマッチングサービスを展開しつつ、求人需要の減少につながる企業の効率化をサポートするのは、(自社の求人のサービス需要を減少させることを考慮すると)少し違和感があるものの、既存事業(人材サービス事業)の規模の限界が見えてきたのかもしれない。人材サービス事業でつちかった営業力により、新しい商品である「コボット」を全力で展開しているのが現状だ。
「コボット」の契約は順調に増加していて、人材サービス事業以外にディップを支える柱事業になれば、株式市場では大きく評価されるはずだ。もちろん、RPAやクラウドといった業務の効率化を提供する専業の企業が多く参入している領域であり、簡単に拡大をはかれる道ではない。
■新型コロナウイルスの影響は?
ディップを襲った新型コロナウイルスの影響はかなり大きかった。2020年5月には前年同期比△40%近くまで契約社数が減少した。8月時点で前年同期比△15.8%まで下げ幅は縮まっているものの、飲食店を中心に店舗の閉店が予想され、もう一度、求人需要下落の可能性が予想される。冬場になると、ふたたび新型コロナウイルスが拡大する可能性があり、ディップの業績には不安要素が残る。
■ディップの株価の行方は?
ディップの株価の行方はどうなるのか?求人・求職にかかわる人材サービス事業は楽観できる状況ではなく、前年対比でマイナスがつづくだろう。いっぽうで、ディップは年間営業利益70~100億円くらい稼げる企業であり、時価総額1,400億円規模であれば、それほど下値余地は大きくないとも考えることができる。
ディップは求人メディア市場では非常に強い存在であり、固定費である人件費(年間:約60億円)と広告費(同:約50億円)をうまくコントロールすれば赤字になる可能性は小さい。2021年2月期の第二四半期では、広告費は9.6億円と前年同期の26.3億円から△16.7億円も削減している。
ディップは、余剰資金(現預金:80億円、投資有価証券:100億円)が多く、再生可能エネルギーによる新電力企業である「みんな電力」へ出資をしたり、ベンチャー企業への投資にも力をいれている。リクルートのように事業領域の拡大の可能性は高く、まだまだ期待できる企業のひとつ。ただし、株価が上昇トレンドに入るまで様子見が無難だ。
以 上