福利厚生アウトソーシング事業「ベネフィット・ステーション」を中心に事業展開しているベネフィット・ワン。パソナグループの社内ベンチャーとしてスタートしている。「ベネフィットステーション」は東急不動産グループのイーウェルが運営する「Welbox」と並ぶ日本を代表する福利厚生アウトソーシングのサービス。顧客企業が「ベネフィットステーション」に加入し、その社員が割安価格でホテルやサービスを利用できるもの。ベネフィット・ワンの業績と株価の行方はどうなるのか?
■基本情報(2021年6月4日時点)
- 株価:3,145円(10年来高値:3,445円)
- 時価総額:5,031億円
- 予想PER:61.6倍
- PBR:25.19倍
- 予想配当利回り:1.14%
- 自己資本比率:54.9%
- 会計基準:日本基準
■ベネフィット・ワンの業績は?
ベネフィット・ワンの2021年3月期の売上高は378億円(前年比+1.5%増)、営業利益97.7億円(前年比+16.4%増)の増収増益となった。ベネフィット・ワンの売上総利益率は+43.4%、営業利益率は+25.8%と収益性は非常に高い。
ベネフィット・ワンのPBRをみると20倍を超えており、株価は割高に見える。しかしながら、ベネフィット・ワンは毎年、配当性向70%を還元しているため内部留保する割合が低いことも影響している。ベネフィット・ワンはサービス会社であり設備投資は不要。そのため、利益の70%を株主に還元している。もともと、パソナグループの社内ベンチャーとしてスタートしており、現在もパソナグループが50.7%保有する筆頭株主となっている。
ベネフィット・ワンの時価総額は約5,000億円に対して、親会社のパソナグループの時価総額は約800億円。親子の事業価値が逆転している。パソナグループの営業利益の中心はベネフィット・ワンが稼いでいる構造になっている。
■ベネフィット・ワンの事業内容は?
ベネフィット・ワンは福利厚生、インセンティブ、ヘルスケアという分野の事業をおこなっている。福利厚生は全体の売上高の半分近くを占めており、2021年3月期の売上高は205億円、営業利益83.8億円となっている。事業内容としては福利厚生サービス「ベネフィットステーション」の運営だ。「ベネフィットステーション」は会員数633万人で、そのボリュームを武器にホテルなどさまざまなサービスを会員価格で提供している。いわゆる、福利厚生アウトソーシング事業だ。
昔は企業ごとで保養所などを持ち、従業員の福利厚生としてサービスを提供していたものの、時代が変わり、「ベネフィットステーション」などにアウトソーシングするようになった。ベネフィット・ワンの稼ぎ頭の事業だ。
注意が必要なのは、福利厚生事業の個人会員は2020年度に前年の126万人から108万人に大幅減となっている。法人会員は現在の633万人から2022年4月には775万人に100万人以上も増加させる計画となっており、計画どおり増加できるか注意が必要だ。最近ではホテルなど宿泊施設は予約プラットフォームの「楽天トラベル」、「トリバゴ」、「アゴダ」、「一休.com」、「ブッキングドットコム」、「じゃらん」などと価格がそれほど変わらない。
■ベネフィット・ワンのインセンティブ事業とは?
インセンティブ事業の2021年3月期の売上高は39.5億円、営業利益9.7億円だ。インセンティブ事業は、導入企業において設定した付与基準により「インセンティブポイント」を付与・使用できるサービスだ。たとえば、永年勤続(勤続5年、10年、20年)で5万ポイント付与、業務改善提案で2万ポイント付与、チーム貢献賞として3千ポイント付与、お誕生日ポイントとして2千ポイント付与など。
これらのポイント付与により、売上アップやコミュニケーションアップを促進することが狙いだ。導入企業数は484社。ソフトバンク、パナソニック、サントリー、コナカ、マルコメなど大手企業でも導入されている。
■ベネフィット・ワンのヘルスケア事業とは?
ベネフィット・ワンのヘルスケア事業の2021年3月期の売上高は103.6億円、営業利益7.5億円。ヘルスケア事業は福利厚生事業に次ぐ規模となっている。
ヘルスケア事業は企業の健診業務や特定保健指導、保健事業のデータ分析などを提供している。「ハピルス」という名称でサービスを展開している。福利厚生事業やインセンティブ事業とくらべると利益率は低い。ベネフィット・ワンが得意とするのは、すでにホテルやサービスと提携した会員事業圏をつくっており、そこに福利厚生またはインセンティブという名目で利用機会を増やすことを得意としている。しかも、追加コストの発生が少なく、利益率が高い。
いっぽう、ヘルスケア事業はベネフィット・ワンにとって新しいサービス。福利厚生事業やインセンティブ事業と同様の利益率を出すことはむずかしい。
■ベネフィット・ワンの中期計画は?
ベネフィット・ワンは2023年度の中期計画を発表した。2023年度(2024年3月期)の売上高は606億円、営業利益は209億円、営業利益率+34.5%を計画している。この計画の中心では、やはり福利厚生事業が収益の柱となっており、売上高285億円、営業利益152億円を計画している。
中期計画の戦略として、会員獲得として会員獲得のアウトソーシングを計画している。顧客開拓に400名、加盟店開拓に6,690名の外部ワーカーの活用を考えている。
■ベネフィット・ワンの株価の行方は?
ベネフィット・ワンの時価総額は約5,000億円。一見すると、売上高380億円の会社の時価総額としては大きすぎる(株価が高すぎる)ように思えるものの、3年後に売上高606億円、営業利益209億円まで成長すると考えた場合、それほど割高感はない。ベネフィット・ワンにとって競合は、東急不動産グループで「Welbox(ウェルボックス)」を展開しているイーウェルのみ。
福利厚生アウトソーシング事業は市場自体が成長してきたので2社ともに成長することができた。今後も安定的に成長できるかは今のところ見えない。これまでベネフィット・ワンはしっかり成長できたものの、市場の成熟度がどこまで進んでいるのか一般消費者からは見えず、会員企業の開拓にどこまで楽観的に見ることができるのか、いまのところわからない。すでに事業規模はかなり大きくなっており、売上高606億円はかなりチャレンジな目標ではないだろうか。成長鈍化が見えたときには、株価は大きく下落する可能性があるので、四半期ベースの会員数のウォッチが必要だ。
以 上