新型コロナウイルスが拡大するなか急成長しているフードデリバリー。日本のフードデリバリービジネスを担っているのは出前館とウーバーイーツ(Uber Eats)。街中でも出前館やウーバーイーツの配達員を見る機会は増えてきた。出前館の2021年8月期は売上高は前年比で約1.7倍を目指すものの、営業利益は△130億円の大幅な赤字を計画している。これから数年は投資期間として市場開拓に力を入れる計画だ。出前館の株価は好調であるものの、今後の株価の行方はどうなるのか?
■基本情報(2020年12月25日時点)
- 株価:3,290円
- 時価総額:2,812億円
- 予想PER:-(営業赤字△130億円の計画)
- PBR:10.84倍
- 予想配当利回り:0%
- 自己資本比率:74.0%
- 会計基準:日本基準
■出前館の業績は?売上総利益率の低下がきびしい!
2021年8月期の第一四半期の売上高は42.3億円(前年同期比+132.7%増)、営業利益は△31.9億円(前年同月は△2.1億円の赤字)となり、売上高は大きく伸びているものの営業利益は大きな赤字となった。出前館は2021年8月期は決算短信しか公表していないため、決算短信を読むと、売上高の上昇にともなって売上総利益額が25.3億円(前年同期は11.3億円)と2倍以上に上昇している。いっぽうで、販売管理費も大きく増加して△31.9億円の営業赤字となった。
出前館の売上総利益率は約40%(前年同期は62.4%)となっている。前年と比べて、売上総利益率がさがってきているのに注意が必要だ。売上総利益率が40%前後の事業構造で、配達員の人件費をカバーして利益を出すことができるか、引き続き事業モデルの変化に注意が必要だ。
■セグメント別の売上高は?
出前館の売上高は、主に出前館のサービス固定使用料(売上その他)、配達代行手数料、オーダー手数料の3つに分かれている。大きく伸びているのが配達代行手数料だ。配達代行手数料は、商品代金(税抜)の30%(2021年1月より25%に引き下げ)を飲食店から徴収する手数料だ。2019年は3.3億円だったものが、約7倍の23.2億円まで増加。
もう一つは、出前館の出前サービスのプラットフォーム(アプリ他)を使用することで発生するサービス利用料の57.2億円(2019年は37.4億円)。このサービス利用料は出前館が配達しない場合でもシステム利用料として商品代金(税抜)の10%発生する。いづれにしろ、出前館の利用者規模が大きく伸びており、アクティブユーザー数は約400万人(前年比+31%増)、加盟店数は3.3万店舗(前年比+65%増)、年間オーダー数は約3,700万件(前年比+31%増)となっている。
■出前館の販売管理費の構造に注意が必要!
出前館の売上高は大きく増加中。しかしながら、出前館はほかのITサービス企業とは異なる点に注意が必要だ。たとえば、会計クラウドサービスのフリーやマネーフォワード、ラクスなどはシステムを開発してしまうと、継続課金として毎月売上高が計上される。しかも、追加的なコストはそれほど多くない。出前館は自社で配達する場合、販管費のところで配達員の人件費が発生してしまう。
出前館の売上総利益額は売上高の上昇にともない増えていくものの、販管費の配達員コストも同様に増えていくことに注意が必要だ。事業モデル的に、東証第2部に上場しているオンラインクレーンゲームを運営するサイバーステップに構造が似ている。サイバーステップの売上高総利益率は約80%前後であるものの、クレーンゲームの商品の発送費が大きく発生し、売上高の上昇とともに販管費が増えてしまい、それほど営業利益がでない構造だ。
■出前館の加盟店は順調に増えている!
日本のフードデリバリー業界は出前館とウーバーイーツの2強となっている。出前館の加盟店は2020年12月24日に5万店舗を達成した。2022年12月に10万店舗を目指す計画だ。フードデリバリーのビジネスに関しては、中国本土では6年~7年前から大きく拡大している。大手企業の大衆点評や美団(いずれも同じグループ)が市場をほぼ独占する形となっている。
心配されるのは、プラットフォーム企業は商品代金の35%~40%の手数料を取るため利益が出るものの、加盟店の飲食店ではそれほど利益が出ない点だ。中国ではゴーストレストランとよばれるキッチンのみの店舗も多く、出前商品の値下げ競争がはげしい。日本市場でも飲食店の利益の更なる下落にともない、フードデリバリーの出店が停滞・減少するリスクがあることに注意が必要だ。
■出前館のサービス利用料は?
出前館の加盟店舗はだいたい35%~38%の利用料を負担する必要がある。自社で宅配する場合は、10%~13%前後となる。たとえば、商品代金1,000円の弁当を注文した場合、350円ほどが出前館に入る。出前館は1つの配達に対して、200円~400円くらいの配達手数料を配達員に支払っていると考えると、売上高の10%前後の粗利となる計算だ。
■大手チェーン店の加盟が加速!
出前館によると、すき家、マクドナルド、びっくりドンキー、ロイヤルホストなど大手飲食チェーン店が出前館に加盟している。感覚的であるが、マクドナルドでは出前館よりもウーバーイーツの配達員をよく見かけるのは気のせいだろうか?
■出前館の中期経営計画は?
出前館は2023年8月期に売上高970億円、営業利益120億円、営業利益率12.3%を計画している。流通金額を考えると、現在の約1,000億円から3,400億円に3倍以上の市場を開拓する計画だ。流通総額が3,400億円になった場合、配達員の確保など解決すべき課題が残る。
中国でフードデリバリーが拡大した背景には、日本と異なりコンビニやスーパーマーケットなどの弁当・お惣菜の文化が浸透せず、弁当などの市場が小さかったことが背景にある。中国人は温かい出来立てを食べたいというニーズがあり、フードデリバリーがうまく国民性や文化にマッチした。また、中国ではマンションの敷地が広く、コンビニやレストランまで自宅から距離がかなりあるという住宅事情もある。日本では自宅の近辺にコンビニ、吉野家、松屋などがあり、食事(地点)までのアクセスが身近という点が中国とは異なる。
■出前館の株価の行方は?
出前館の株価は堅調だ。現在の時価総額は約2,800億円。いまは世界的な金融緩和政策のため、出前館の株価は将来の期待を織り込みながら、足元の実力からは大きく乖離した株価になっている。出前館だけでなく、デジタルやクラウド関連の企業を中心に株価は大きく上昇している。これから更に上昇する可能性は十分にあるものの、金融政策の変更によっては株価低迷の可能性もあるので注意が必要だ。出前館の中期経営計画をみると、いまの株価に割安感はまったくない。
ただし、2020年にLINEより300億円の第三者割当増資を実施しており、自己資本比率は70%を超えている。財務的な安全性は高い。日本で新しいビジネス市場を開拓できるか、開拓できたときに計画している利益を出せるかどうか、出前館の先見性にかかっている。
以 上