会計税務、人事労務、販売管理などの業務システム「奉行(ぶぎょう)シリーズ」を展開しているオービックビジネスコンサルタント(以下、OBC)。2021年3月期は減収減益となったものの、引き続き営業利益130億円、営業利益率+44.2%の高収益を維持している。freee(フリー)、マネーフォワードなどクラウドIT企業の競合が台頭するなか、OBCの業績と株価はどうなるのか?
「勘定奉行シリーズ」のオービックビジネスコンサルタント(OBC)、株価は上場来高値圏に!(2020年6月7日投稿)
■基本情報(2021年4月30日時点)
- 株価:6,420円(10年来高値:7,570円)
- 時価総額:4,826億円
- 予想PER:43.1倍
- PBR:3.8倍
- 予想配当利回り:0.93%
- 自己資本比率:81.2%
- 会計基準:日本基準
■OBCの業績は?
OBCの2021年3月期の売上高は293億円(前年比△2.7%減)、営業利益129億円(前年比△0.3%減)の減収減益となった。OBCの売上総利益率は+83.8%(前年は+82.5%)、営業利益率は+44.2%(前年は+43.2%)と収益性が非常に高い特徴がある。OBCで気になる点と言えば、競合他社の動向。
クラウド会計のfreee(フリー)やマネーフォワード、弥生、PCAなどクラウド化に対応しており、最近ではfreeeやマネーフォワードの売上高の伸びが高い。OBCの「奉行シリーズ」もクラウド展開しているものの、オンプレミス環境(自社サーバーインストール型)から切り替え時に競合他社に流れてしまわないか心配な点はある。2022年3月期は「奉行8シリーズ」約5.6万本のサポートが終了するため、OBCとしてはクラウドへの切り替えを想定している。その時に、顧客が他社のソフトに移ってしまうリスクは起こりえるからだ。
■OBCの業績推移は?
OBCの営業利益率は43%前後の高収益で推移している。OBCは長年の顧客サポートの結果、「奉行シリーズ」を順調に発展させてきた。しかしながら、ここ3カ年の業績は売上高・営業利益ともに横ばいが続いている。競合他社に打ち勝てるかどうかがOBCの今後の成長に大きく影響する。
■進むOBC製品のクラウド化!
OBCはこれまでオンプレミス環境でのパッケージソフトを中心に展開してきたものの、毎年クラウド(SaaSやIaaS)の売上高が大きく増加している。セグメント別の損益を見たとき、クラウド化によりサービスに含まれる保守サービスの売上高が減少すると思われる。OBCはパッケージソフトを売って、保守サービスでしっかり利益を上げる構造だったからだ。クラウド化の進展により、OBCの収益構造にどのくらい影響がでるだろうか。
そもそも、OBCの顧客は中小・中堅企業が中心だ。競合他社のfreeeやマネーフォワードのクラウドサービスであれば、月額料金を支払えば追加の費用負担はない。これまでOBCは保守サービス売上高の半分以上を保守で稼いでおり、この部分の減少とクラウドの月額料金の増加がどこまで差額として影響するか注意が必要だ。
■OBCの販管費の内訳は?
OBCの販管費を見ると、研究開発費と人件費の割合が高い。研究開発費も実質、その中身は人件費がほとんどのため、年間で約70億円の人件費が発生していると考えてよいだろう。競合他社は積極的な広告宣伝を行っているものの、OBCの年間広告宣伝費は約8億円にとどまる。
競合他社のfreee(フリー)は広告宣伝費を公開していない。マネーフォワードの年間の広告宣伝費は約20億円。名刺サービスのSansanの年間の広告宣伝費は約24億円。「楽楽精算」のラクスの年間広告宣伝費は約10億円(前年は22.5億円)。新興のクラウドサービスを展開している企業は積極的な広告宣伝をおこなっている。同業他社の認知向上による先行投資を見ていると、OBCは本当に順調に「奉行シリーズ」のクラウド化を進めることができるのか不安になる。
■OBCの2022年3月期の計画は大風呂敷なのか?
OBCの2022年3月期の売上高は340億円(前年比+16.2%増)、営業利益154億円(前年比+18.9%増)を計画している。ここ3年間は売上高・営業利益ともに横ばいが続いていたものの、オンプレミス(自社サーバー型)の「奉行8シリーズ」がクラウド化することにより、急激に売上高が増加する計画と思われる。
たしかに新規顧客を開拓するよりも、「奉行クラウド」への切り替えのハードルは高くないかもしれないが、顧客の切替時の意向やニーズを把握しているのだろうか。freee(フリー)やマネーフォワード、弥生などの立場で考えると、絶好の顧客獲得のセールスチャンス到来とも言える。
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■OBCの株価推移は?
OBCの株価は順調だ。時価総額は約4,800億円と一見すると過大評価されているように見えるものの、予想PERは43倍にとどまる。競合他社のfreee(年間売上高96億円、営業利益△22億円)の時価総額は約5,000億円とOBCよりも評価は高い。
いまの株式市場ではグロース銘柄が評価される傾向にある。OBCが公表している2022年3月期の計画を達成できる見込みが見えたとき、ここから株価はさらに上昇するはずだ。いっぽうで、計画が過大で未達の見通しが見えた場合は、いまよりも株価は下がることも予想される。OBCの時価総額はすでに大きいため、様子見が無難だ。
以 上